にゃほー。
RSウイルス予防薬に新薬が出るらしいよ!
今年は県内でも春先にRSウイルス感染症の流行が有りましたね。今日はRSウイルスの予防薬について解説します。
RSウイルス予防薬
RSウイルスには「予防接種」が無い!
毎年のように流行する『RSウイルス感染症』ですが、インフルエンザのような予防接種(ワクチン)はありません。
RSウイルスに感染すると抗RSウイルス抗体が体内で作られ、ウイルスの排除に働きます。しかし、インフルエンザなど他の感染症と比べ、抗体が少量しか作られず、短期間で消失してしまうことがわかっています。
仮に「RSウイルスワクチン」を作っても、抗RSウイルス抗体は期待するほどの量が作られず、短期間で消失してしまうため、感染予防効果が期待できないようです。
「予防薬」は存在
「それじゃあ、RSウイルス感染症は予防不可能なの?」という声が聞こえてきそうですが、実は存在します。予防薬。
『RSウイルス特異的ヒト化モノクローナル抗体』と言う種類の薬で、一般名パリビズマブ(商品名:シナジス)です。
これは、遺伝子組み換え技術により作られた 『抗体製剤』 です。予防接種は ”ウイルスもどき” を人体内に投与することで人体内で抗体が作られるのですが、抗体製剤は人体外で人工的に作られた抗体です。
- 予防接種(ワクチン)は人体内で抗体を作らせる
- モノクローナル抗体は人工的に作った抗体を体内に投与する
というわけで、RSウイルスの予防接種は存在しませんが、『抗体薬(予防薬)』は存在するというわけです。
パリビズマブ(シナジス®)の問題点
「『予防接種(ワクチン)』も『モノクローナル抗体』も、どちらも抗ウイルス抗体が増えるんだから一緒じゃん」と言いたいところですが、モノクローナル抗体には問題点があります。
1ヶ月ごとに投与が必要
ワクチンは1〜2回の接種で数ヶ月〜数年間の予防効果が期待できますが、抗体製剤はおよそ3週間で半減してしまうため、予防効果を持続させるためには1ヶ月ごとに注射を繰り返す必要があります。
大量生産ができない
抗体製剤は製作方法の問題で大量生産ができません。毎年何千万人もの人が受けるインフルエンザ予防接種のように、多くの人へ投与することは不可能です。
価格が高額
大量生産ができないことも影響し、抗体製剤の価格は非常に高額です。パリビズマブ(シナジス®)1投与あたりの値段は12〜15万円程度です。1人のお子さんを5ヶ月程度RSウイルスから予防するために60万円程度の費用がかかります。(小児の場合、ほとんどの額が医療保険で賄われます)
上記のような理由から、パリビズマブ(シナジス®)の適応はごく一部の方に限られています
・早産児
・先天性肺疾患や先天性心疾患
・免疫不全症
・ダウン症
注)月齢などさらに細かな条件があります
新薬「Nersevimab」
パリビズマブには「1ヶ月投与が必要」という欠点があったのですが、”1回の投与で1シーズン(4〜5ヶ月間)の予防効果が持続” というRSウイルス予防薬が開発されました。
「Nersevimab」という薬です。
まだ情報が少ないのですが、予防接種ではなく『抗体製剤』のようです。”投与回数が1回で済む” というのは画期的なのですが、間違いなく薬価が高い物になりそうです。
ということは、「すべてのお子さんに投与できる薬にはならないかもしれない」。
せっかく『1回投与のRSウイルス予防薬』が完成したというのに、パリビズマブと同じように一部の対象者にしか使えない薬になる可能性がありそうです。詳細情報がまだですので、今後の発表を待ちましょう。
すべての小児に使用できるRSウイルス予防薬ができると良いですね。
文責; 小柳貴人(医学博士・アレルギー専門医 ・小児科専門医)
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