みなさんこんにちは。
今日は ”子どものときにひいた風邪が成人後まで影響を及ぼす” というデータが発表されたので紹介します。
幼児期の下気道感染症は成人後の呼吸器疾患死亡リスクを増やす
元論文
Early childhood lower respiratory tract infection and premature adult death from respiratory disease in Great Britain: a national birth cohort study, James Peter Allinson, et al. Lancet. March 07, 2023
有名医学誌である『Lancet』に掲載された論文です。
直訳すると ”幼児期の下気道感染症と成人期の呼吸器病による早死” です。
1946年3月にイングランド、ウェールズ、スコットランで生まれた子を対象に、何十年もの期間をかけて追跡した壮大な研究です。
解説
幼児期は肺の発育に重要な時期であり、この時期に下気道感染症(肺に近い部位の感染症)を起こすと、肺の構造が傷害され、成人後に呼吸器の病気になりやすくなるのではないかと考えられています。
今まで、幼児期から成人後まで続けて追跡できた研究はほとんどなく、この仮設は検証されていませんでした。
今回の研究では対象となった5362人のうち、26歳時点まで追跡できた3589人が分析の対象となりました。この3589人のうち、2歳までに下気道疾患の病歴があった人は913人(25%)おり、下気道疾患の病歴がなかった人に比べて呼吸器疾患で死亡するリスクが高かったという分析結果が出ました。
最終的な結論として「2歳未満での下気道疾患経験者は、病歴がない人に比べ、成人になってから呼吸器疾患で死亡するリスクが2倍近い」と述べています。
考察
「RSウイルスに感染すると喘息体質になりやすい」という言葉を聞いたことはありませんか?
近年の研究で、乳幼児期にRSウイルスなどの下気道感染症にかかってしまうと、呼吸の通り道である気道粘膜がダメージを受けてしまい、その影響が数ヶ月から数年間残ることがわかってきました。ちょっとした刺激で咳やゼーゼーが出てしまう状態で、一般的に『喘息体質』と言われる状態です。
これはダニ・ハウスダストなどが影響するアレルギー性喘息と異なり、数ヶ月から数年経過すると徐々に改善し、多くの場合は喘息治療はいらない状態となります。そのため、”下気道感染の悪影響は長くても数年程度だろう” と考えられていました。
しかし今回の研究で、幼児期の下気道感染は数十年経過した後にまで影響を与えることが示唆されました。やはり肺付近がダメージを受けてしまう『下気道感染』は極力かからない方が良い感染症と言えそうです。
『幼児期下気道感染の成人後への影響』についてご紹介しました!
文責; 小柳貴人(医学博士・アレルギー専門医 ・小児科専門医)
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